私で7代、約250年もの長きにわたりここ江戸堀の地で商売を続けてきたわけですが、父も祖父も『味噌屋は継がんでええから、信仰だけは継いでくれ』と言っておりました。光照寺という浄土真宗大谷派の小さな末寺の檀家総代を代々しておりましたが、母・祖母からは『お寺のことは適当にしてしっかり商売に身を入れんとあかんで』と言われています。
大阪“船場”で生まれ育ったわりに、船場商法についてはあまりわかっていません。テレビの『どてらいやつら』を見て、“大変やったんや”と感じるのが精一杯です。だいたい“大阪商人”のイメージたるや、“安うに買うて高うガムシャラに売って悪どく儲けている”というような、ろくなものではないような気がします。しかし、消費者の意識が高い関西、特に競争の激しい大阪で商売を続けていくには“よい物(ええもん)”をええ売り方していかねば無理だったと思います。手前どもも“食い道楽大阪”の名に恥じないよう、どこに出しても恥ずかしくない商品を手間暇かけて丁寧につくっております。
我が家には家訓といった仰々しいものはないのですが、『いつもご先祖様が守ってくださっている』……から頑張れとか、馬鹿なまねはするなとか、ご先祖様を大切にしろとか言われてきました。広島高等工業で学んでいた父が、原爆の犠牲とならずにすんだことや、体が弱く、『20歳まで生きられない』といわれていた祖父が、77歳まで生きたことなど、どうも跡取りの命だけは守ってくださっているようです。が、楽な思いはさせないのがご先祖様の思いやりのようでもあります。仏法の何たるかもわからないままの信仰ですが、人としてのあり方を身につけるよう言われていると思っています。ご先祖様の努力の蓄積のおかげで、“老舗”と呼ばれるまでになり、信用も頂戴しているような現状ですが、この“信用”なるものは非常に不確定なものと考えております。今の私どもが手を抜けば、たちまち信用はなくなるわけで、不断の研鑽が必要なのでしょう。
お寺とご先祖様を大切にしろという、一見年寄りに都合のよい約束事も、小規模の当店には適当な家訓であるのかもしれません。私が13年間在籍した、住友化学工業(株)~住友製薬(株)は、名前からもわかるように、住友グループの会社です。そこには“住友の事業精神「営業の要旨」”たるものがあり、
第一条、わが住友の営業は信用を重んじ確実を旨とし、もってその鞏固(きょうこ)隆盛(りゅうせい)を期すべし。
第二条、わが住友の営業は時勢の変遷、理財の得失を計り、弛張興廃することあるべしといえども、いやしくも浮利にはしり軽進するべからず。
と教えられました。この他に「自利利他公私一如」という言葉もありました。お客様及び社会からの信頼に応えることを最も大切にし、目先の利益のみにとらわれることのないように、という強い戒めと、公益との調和を強く求める言葉だと思います。企業規模はあまりにも違いますが、このすばらしい理念は、もっともっと大切にしてゆかねばならないと願っております。
私が学んだ同志社に“良心の碑”なる大学設立の趣旨を刻んだ石碑があります。「良心ノ全身ニ充満シタル丈夫ノ起コリ来ランコトヲ」。新島襄は、良心が全身に充満する人間の育成を志して、京都に同志社を興したわけです。モラルの欠如が問題視されている現代日本には、良心を持った企業経営が必要なのではないでしょうか。
私たちの味噌は上方料理とともに育てられ、江戸時代から赤だし味噌と称し、最高の材料を使って、丹精込め手間暇をかけ、吟味醸造いたしております。赤味噌は、夏の激しい、冬の静かな、春秋の穏やかな発酵を経て完成するとの考えより、1年半~2年の期間をかけて熟成させております。また、調味料としての味噌を再評価してもらうためにはどうしたらいいか常に考えると同時に、味噌スイーツの開発といった新しい分野にも挑戦しております。
新世紀を担う“最高の赤味噌・白味噌”に加え、斬新な新製品ができましたら、ぜひ一度お試しください。
7代目当主 金澤忠俊
当店は、宝暦年間(1750年代)より大阪江戸堀にて米屋を営み、その傍ら米麹の製造、さらに近隣の武家屋敷での味噌仕込みのお手伝いをするようになりました。そしてこの味噌が大変美味しいと評判を呼び、文政3年(1820年)に初代忠助が味噌醸造・販売を専業に手がけるようになりました。以来、米忠味噌と名づけて、食い倒れ大阪のお客様方にご愛好いただいております。
大正、昭和、平成と引き続いて、陛下ご来阪の節にはご食膳にのぼる光栄を得ております。上方料理とともに育てられた料理味噌として、昔から赤だし味噌と称し、手前味噌ではありますが「どこにも負けない味」と自負しております。
最高の材料を使って、丹精を込め手間暇をかけ、皆様方のご趣向にそうように吟味醸造いたしております。
日本老舗100店会・(協)大阪有名大店会・甘辛のれん会・浪花うまいもの会・なにわ商人味と技会・船場賑わいの会・せんばGENKIの会・靱(うつぼ)ブロードウェイプロジェクト他加盟